- 短距離走のスタートダッシュ
- レスリングで予備動作をなくし、相手に動きを読まれることなくタックルする
- 野球の守備で、速い打球に反応して瞬時に動いてボールを捕る
競技は異なりますが、これらに共通しているスキルは「爆発力(パワー)」です。
パワーを高めたい方におすすめのトレーニング方法があります。
それは「バリスティック」です。
バリスティック トレーニングとは?
スポーツパフォーマンスを向上させるには、競技練習を積むことはもちろんですが、
筋トレで筋肉を強く大きくし、身体の基礎を作ることが大切です👇
次に、スポーツによって動きに違いはありますが、多くの競技動作に共通するベースとなるスキルを磨く必要があります。
それは「ダイナミックな動きの中で高いパワーを筋肉に発揮させる能力」です。
近畿大学 生物理工学部 谷本道哉准教授は、「パワー発揮のための基礎スキル」を
- できるだけ素早く力を立ち上げて高いパワーに到達する「爆発力」
- 筋肉や腱の弾性力を巧みに使った「バネ」
- 全身で生み出したパワーをターゲットの動作部位に巧みに伝えていく「連動性」
の3つに分け、解説されています。
バリスティックは、この中の「爆発力」に深く関係しています。
ここでは誤解を避けるために、爆発力・瞬発力をまとめて「パワー」と表現します。
パワーとは?
パワーは、「力の立ち上がり率(Rate of Force Development:RFD)」で表されます。
わかりやすく言うと「短時間に大きな力を発揮する能力」のことです。
「短い時間でトップギアに到達する能力」と言い換えることもできます。
スポーツではゆっくりと大きな力を発揮するより、瞬間的に大きな力を発揮する能力が求められるので、
パワーはスポーツパフォーマンスと深く関係しています。
「パワー発揮のための基礎スキル」の中に「プライオメトリクス」というトレーニング方法があります。
知識のある方なら「バリスティックとプライオメトリクスって何が違うの?」と思われるかもしれません。
2つのパワー発揮スキルトレーニングの違いについて、少しお話ししておきましょう。
バリスティックとプライオメトリクスの違い
バリスティックもプライオメトリクスも、スポーツに必要なパワーを発揮するためのトレーニングです。
それぞれの特徴を簡単にまとめてみました👇
バリスティック トレーニング
- 可能な限り素早く速く挙上する
- 静止した状態から一気にパワーを発揮する
- 反動を使わない
プライオメトリクス トレーニング
- 筋肉や腱の「バネ」を巧みに使い、パワーを発揮する
- 動いている状態の中でパワーを別の部位に伝える
- 往復の反動を使う
両者は互いに重なっている部分もあるので、少し動き方を変えるだけでバリスティックにもなり、プライオメトリクスにもなります。
目的や競技の特性に合わせて2つを使い分け、幅広いパワー発揮スキルを磨くことが大切です。
プライオメトリクスについてもっと詳しく知りたい方はこちらもどうぞ👇
バリスティック トレーニングのメリット
バリスティック トレーニングを行うことで、どのような効果が期待できるのでしょうか?
先に述べたように、バリスティックはスポーツで重要な「パワーを発揮するためのスキル」の1つです。
バリスティック トレーニングを積み、
短時間でトップギアに到達するパワーを向上させることができれば、
- 静止した状態から爆発的に加速できるようになる
- 相手の動きに瞬時に反応できるようになる
このような効果が期待できます。
「パワー」と「最大筋力」は別もの
バリスティックは、「負荷を可能な限り素早く高速で挙上する」トレーニング方法です。
その目的は「スポーツで求められる爆発力」を鍛えることです。
ここで注意しなければならないのは、「パワーと最大筋力は別ものである」ということです。
パワーと最大筋力を同じ意味で用いることが多々あるので、両者の違いを少しお話ししておきましょう。
例えば、ある選手のバーベルスクワットの1 Rep Maxが100kgだとします。
1 Rep Max(RM)とは、1回だけ上げられる重さのことです。
筋トレを積み、3ヶ月後にまた測定した時、1RMが110kgに伸びていたとしましょう。
この場合、最大筋力が10kg(100kg→110kg)向上したことになりますね。
ふつうに考えれば、伸びた10kg分パワーも向上しそうに思えますが・・・
最大筋力を伸ばせばパワーも伸びるとは限らない
最大筋力の向上が必ずしもパワーの向上を意味しない理由は、
- 最大筋力→じわじわと大きな力を出していく
- パワー→瞬間的に大きな力を発揮する
筋力を発揮するスピードに違いがあるからなのです。
従って、最大筋力を伸ばせばパワーも伸びるというわけではないのです。
バリスティック トレーニングに適した負荷は?
パワーを高めるトレーニングは、用いる重さを増やし続ければよいというわけではありません。
パワーを高めるために適切な負荷はどれくらいなのか、研究がなされています。
研究では「30~40%1RMくらいの負荷」がバリスティック トレーニングに最も適した負荷強度とされています。
30~40%1RMとは「1回だけ上げられる重さの30~40%の重さ」という意味です。先程のバーベルスクワットの例でいうと、110kgの30~40%なので40kgくらいになります。
この負荷でトレーニングすることで、
「低負荷から高負荷まで広い条件に対して、全般的に発揮できるパワーが上がる」
ということが、実験結果で明らかになっています(Moss, 1997など)。
最大筋力の30~40%が基準
従って、バリスティック トレーニングを行う時は30~40%1RMを基準とし、
そこから競技の特性に合わせて負荷を調整してゆく方法がベストです。
競技の特性に合わせるとは、例えば、
- ウエイトリフティングのように、1回だけ高重量を爆発的に持ち上げるタイプ
- レスリングのタックルのように、相手の動きに反応して瞬間的&繰り返しパワーを出すタイプ
など、競技やポジションに特有のパワーの発揮の仕方に近づけるということです。
バリスティック トレーニングの方法
バリスティック トレーニングの最適な負荷強度がわかりました。
では、具体的にどんなやり方があるのでしょうか?
「思い切り放り投げる」方法が理想的
バリスティックとは、英語で「弾道」という意味です。
その名の通り、重たいメディスンボールなどを遠くへ思い切り放り投げる形が理想のトレーニング方法です。
なぜ放り投げるのが良いのかというと、最終可動域まで全力で筋力を発揮することができるからです。
放り投げない場合、必然的に動作の終盤は減速するために力を弱めますね。
スポーツドキュメンタリーで、テニスの錦織選手が、
メディスンボールを横に投げて壁に当て、体幹の回旋パワーを高めるバリスティックトレーニングをしていました。
しかし、安全面から、ジムの中や自宅でウエイトを思い切り投げるわけにはいきません・・・
止めたところからできるだけ速く挙上する
放り投げなくても、2つのポイントを抑えればバリスティック トレーニングの効果を高めることができます。
- 反動を使わない
- できるだけ速く、爆発的に挙上する
例えば、バーベルベンチプレスで上半身の押す動作のバリスティック トレーニングを行う場合、
胸につくすれすれでバーベルを1秒くらいとめ、そこから思い切りプレスします。
動きを止めることで大胸筋や上腕三頭筋などの「伸張反射」をなくし、純粋な筋力で持ちあげるのです。
伸張反射とは、急激に引き伸ばされた筋肉が素早く縮もうとする反射のことで、筋肉の縮もうとするエネルギーを巧みにパワーにつなげるのが「プライオメトリクス」です。
バリスティック トレーニングは、器具を使わず自分の体重のみで行うこともできます。
上半身の押す動作ならプッシュアップジャンプ、下半身の押す動作ならスクワットジャンプなど、
先程お話ししたポイントをしっかり抑えれば、ボディウエイトのみでも効果的です。
アブドミナルブレーシングでエナジーリークをなくす
効果的にバリスティック トレーニングを行うためのポイントがもう1つあります。
それは「アブドミナルブレーシング(体幹を引き締めて固定する)」です。
ジャンプを例に説明すると、上に高くジャンプするためには、
- どれだけ強く速く地面を押せるか
- 地面を押す力を体幹を通して効率よく伝達できるか
この2つががカギとなります。
アブドミナルブレーシングは2つ目のポイントと深く関係しています。
体幹がブレるとパワーが下がる
ジャンプに限らず、フィールドで相手の動きに素早く反応する時も、体幹の安定性は重要です。
体幹は下半身や上半身で生み出したパワーをスムーズに目的の動作につなげる役割も担っています。
つまり、体幹が安定せずブレてしまうと、エネルギーに「漏れ」が生じてしまうわけですね。
これを「エナジーリーク(Energy Leak)」と言います。
スポーツ中でも無意識にアブドミナルブレーシングができるようになれば、
- 地面からの反発力(床反力)を効率よくパワーに変換できる
- 上半身や下半身で生み出したパワーを効率よく目的の動作につなげられる
このような効果が期待できます。
パワー発揮には体幹の安定性が不可欠なのです。
また、スクワットの基本的なフォームをマスターすることは、
「地面からの反発力を効率良く得るフォーム」を習得するためにも重要です。
バリスティックの注意点
バリスティック トレーニングを行う上で注意すべきポイントがあります。
- 筋肉・腱・関節にかかる負担が大きいので1回の練習量や頻度に気を配る
- 身体が疲れていない序盤に行うのが望ましい
- 必ず強度の低いエクササイズから開始し少しずつ強度を上げていく
- 毎回最大に近いパワーを出すよう心がける
- 1セットの回数をハイパワーを維持できる回数に抑える(5~10回くらい)
- 身体に痛みを感じる時はすぐに中止する
以上のポイントに注意して、安全にバリスティック トレーニングを行い、パワー発揮スキルを磨きましょう!
どんな競技におすすめ?
バリスティック トレーニングを行うことで、
多くのスポーツで必要な「短時間でトップギアに到達する爆発力」を高められることをお話ししました。
具体的にどのような競技のパフォーマンスアップに貢献するのでしょうか?
ほんの一例ですが、
- 短距離走
- サッカー・フットサルなどフィールドを急に切り返すことが多い球技
- 空手など打撃系の格闘技
- 柔道やレスリングなど組む格闘技
に焦点を当て、バリスティックがどんな時に役に立つのか見てみましょう。
短距離走
短距離走に限らず、スプリント競技はスタートの時、必ず静止した姿勢からスタートしますね。
下半身のバリスティック トレーニングを行うことで、スタートの爆発力を高めることができます。
サッカー・フットサルなどの球技
サッカーなど、相手の反応に合わせて瞬時に方向転換&ダッシュを繰り返す競技では、
下半身のバリスティック トレーニングを積むことで、
スタートの爆発力が向上し、短時間でトップスピードに到達でき、相手に追いつくことができるようになります。
打撃系の格闘技
空手やボクシングなど、打撃タイプの格闘技では、
- 爆発力により予備動作をなくし、相手に動きを読まれることなく攻撃できるようになる
- 相手の攻撃に瞬時に対応でき、攻撃をよけたりカウンターができる
ことが期待できます。
組み手系の格闘技
柔道やレスリングなど、組むタイプの格闘技では、
- 爆発力により予備動作をなくし、相手に動きを読まれることなく、相手の姿勢を崩すことができる
- 相手の攻撃に瞬時に対応でき、防御ができる
ことが期待できます。
次は、ケトルベルで効果的にバリスティック トレーニングを行う方法について掘り下げてみましょう!
ケトルベルでバリスティック トレーニング!
ケトルベルは自宅でパワー発揮スキルを磨くことができる理想的なトレーニングツールです。
扱い方次第で、
- バリスティック トレーニング
- プライオメトリクス トレーニング
両方の効果を得ることができる優れものなのです!
「スイング系」と「デッド系」
ケトルベルエクササイズには、大きく分けて
- 往復の反動を使う「スイング系」
- 床から勢いよく引き上げる「デッド系」
2つのタイプがあります。
スイング系とデッド系、どんな違いがあるのでしょうか?
スイング系はプライオメトリクスに近い
スイング系エクササイズは、ケトルベルの形状によって生み出される遠心力を巧みに使い、より大きなパワーにつなげます。
メインの動力源である大殿筋・ハムストリング・広背筋の弾力性を利用して、スムーズに切り返します。
身体の背面の「バネ」を使ってパワーを生み出すので、プライオメトリクスに近いと言えます👇
デッド系はバリスティックに近い
一方、デッド系エクササイズは反動を使いません。
床の上で静止しているケトルベルを、
股関節と膝を爆発的に伸ばして一気に引き上げます。
反動を利用しない分、より高度なテクニックとパワーが求められます。
スイング系よりも、アブドミナルブレーシングの重要性が高いのも特徴です。
体幹を固め、全身のパワーを爆発させてケトルベルを一気に引き上げるので、
バリスティックに近いと言えます。
爆発力を高めるにはデッド系がおすすめ
スイング系とデッド系、どちらもスポーツで重要なパワー発揮スキルを効果的に高められます。
しかし、爆発力は静止した姿勢から出来るだけ短い時間でトップギアに持っていく能力なので、
爆発力を高めたい方にはデッド系の方が適していると言えます。
とはいえ、スイング系にもメリットがたくさんあるので、
刺激を変えるために、デッド系とスイング系を両方組み合わせてトレーニングすることをおすすめします!
効果絶大!おすすめケトルベルエクササイズ
全身の爆発力を効果的に高められるおすすめのバリスティック .ケトルベルエクササイズを2つご紹介します!
デッドスナッチ
ポイント
- ㎅の真上に立ち、膝を曲げて腰を深く落とす
- ㎅をつかみ、体幹を固める
- 両足で床を強く押しながら爆発的にケトルベルを引き上げる
- 顔の高さを越えるあたりでグリップの力をコントロールし、ケトルベルを回転させて頭上でキャッチする
全身のパワーと、下半身と上半身の連動性が求められます。
ダブルデッドスナッチ
基本的な動作は片手で行う場合と同じです。
2つのケトルベルを爆発的に、同時に引き上げるため、
より高度なテクニック、パワー、全身の連動性が求められます。
特に、左右の筋力差が大きい方はケガをしないよう注意して下さい。
安全に&効果的にケトルベルトレーニングを学びたい方へ
今回は
- バリスティック トレーニングについて
- バリスティックトレーニングのメリットと注意点
- ケトルベルでバリスティック トレーニングを行う方法
についてご紹介しました。
安全&効果的にケトルベルトレーニングを学び、
ケトルベルで爆発力を高めたい方は、ぜひプログラムを体験してみて下さい!
ウエイトトレーニング歴10年以上、パーソナルトレーナー歴8年以上、ケトルベルトレーニング歴4年以上(2021年3月時点)のプロトレーナーが、ケトルベルトレーニングを初心者でもわかりやすく解説しています!シェイプアップからスポーツのパフォーマンスアップまで幅広いニーズに応えられる、自信のプログラムです!
出典
谷本道哉、荒川裕志、石井直方『使える筋肉・使えない筋肉 アスリートのための筋力トレーニングバイブル』、{第二版}、株式会社ナツメ社、2019、p50-59、(ISBN978-4-8163-6551-5)
出典
NPO法人 日本トレーニング指導者協会、鈴木一行、 『トレーニング指導者テキスト実践編 改定版』、(第6版)株式会社大修館書店、2018、p54-66、(ISBN978-4-469-26754-9)
出典
石井直方、 『石井直方の筋肉の科学 ハンディ版』、(第2版)株式会社ベースボールマガジン社、2018、p58-69、(ISBN978-4-583-11133-9 C2075)
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